2013年11月11日月曜日

馬は本当は1馬力も出せない

馬力というのは、ジェームズ・ワットが
蒸気機関の能力を顧客に分かりやすく示すために、
標準的な荷役馬1頭のする仕事を基準としたことに始まる。

・・・・と一般には言われているが、
人類は、古くから馬を使って作業していたから
「馬力」の概念はそれ以前からあった。

「火カエンジン(蒸気ポンプ)」を発明した
トーマス・セヴァリーは彼のポンプの能力を、
何頭分の馬に相当するか、でアピールしていた。

また、ジョン・スミトーンも、馬力を定義して
自らの開発した機械の能力を求めている。

ちなみにスミトーンの定義した1馬力は
[毎分、重力に逆らって1フィート(ft)の高さに、
22916ポンド(lbf)の重さを持ち上げる仕事率]であり、
現在用いられている英馬力と比べると、0.7馬力弱しかない。

最終的に残ったのが、実用的な蒸気エンジンを作り
事業としても成功したジェームス・ワットの定義である。

ちなみに、ワットの定義は
「1秒間につき550ポンドの重量を1フィート動かすときの仕事率」
である。

ワットの定義が残ったのは、学術的にどうこうというより
彼が商業的に成功したので、ワットの定義が一般に広まった、
という事と、単位が1馬力=550lbf・ft/sと、きりが良く、
覚えやすかったからである。

後でわかったことだが、
彼は馬の牽引力を求める実験を行った時、
ポニーのような小型の馬を使ったため、
この結果では小さすぎる、と
(何の根拠もなく)結果を1.5倍している。

さきほどスミトーンの1馬力(約382lbf・ft/s)は、
0.7英馬力程度しかない、と紹介したが、
ワットの定義である1馬力=550lbf・ft/sを1.5で割ると
約367lbf・ft/sとなり、これが本当のワットの実験結果である。

この値はスミトーンの馬力に比べ
わずかに15lbf・ft/s小さいだけである。

ワットが自分の実験結果を1.5倍もしたのは
明らかにやりすぎであり、そのため、
ほとんどの馬は、(継続して)1馬力もパワーを出せない、
というのは、案外、知られていない。

つまり、あなたのバイクが100馬力だとしたら
本当はポニー150頭に相当するパワーを持っているのだ。

それと、念のために付け加えておくが
人間は「火事場の馬鹿力」の時には1馬力くらい出せる
と言われているが、馬も瞬間であれば15馬力くらい出せる。

なので、こちらの数値を馬力と定義しなおすと
100馬力のエンジンは6.7馬力くらいにしかならない。

このように生物を基準にした単位は
一見わかりやすいが、
実のところ、かなりいい加減である。

こうして広まった「馬力」だが、
フランスが中心になって広めたメートル法では
ちょっと困ったことになる。

550lbf・ft/sをメートル法に直すと
76.04022491kgf・m/s。
これでは細かすぎて面倒だと言うので、
75kgf・m/sと数字を丸めてしまった。
この馬力の定義を仏馬力といい
ワットの英馬力をHP、仏馬力をPSと示すことが多い。

1HPと1PSは大体同じだが
両者は約1.4%ほどずれがある

なお、現在ではSI単位を使うことが推奨されており、
馬力ではなくワット(W、一般にはその千倍のkW)
を使う必要がある。

ちなみに、英馬力、仏馬力をキロワットで示すと

1HP=約0.7457kW
1PS=約0.7355kW

となる。

こうして、現在、エンジン出力は
従来の馬力ではなく、キロワットで示されている。

確かにSI単位は非常に合理的で
科学者や技術者にとっては計算も簡単になった。

特に精度の議論をするためには
生物のようないい加減なものを単位にしていては
非常に不都合である。

しかし、それはあくまで
科学者や技術者の都合であり、
一般の社会における必要性とは違う。

「キロワット」と言われるよりも
馬何頭分、と言った方が
イメージという点では優れているように思う。

トルクにしても、ニュートンメートル
なんて単位よりもkgf・mのほうが
イメージはしやすいだろう。

オイラが大学にいた時は
SI単位への切り替えの過渡期だったので
教授たちはみな、従来単位を使っていた。

オイラも、圧力はmmHgで実験していたので
真空度をパスカルで言われると「ええっ?」
となってしまう。

。。。最後はちょっと愚痴を言いました(笑)

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